2025年06月24日
永遠のベストセラー絵本、シルヴァスタイン著『ぼくを探しに』を読む
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子どもの本から、大人へのメッセージ
文部科学省の報告書によれば、1日の平均読書時間は49分(書籍26分•雑誌24分)とのことです。
ベネッセ教育総研の調べでは、子どもの読書は約半数が「ゼロ」だったそうです。
年齢を問わず、どうも読書時間は年々減る一方のようです。
最近では、スマホで本を読む方も多く、通勤時間にスマホでマンガを読んでいる方を多く見かけます。
やはり、分厚い本とか、小難しい本などは、敬遠されるのでしょうか?最近ではAIが簡単に要約してくれるので、読んだ気持ちになれるかもしれませんね。
そこで、短時間で読め、でも、とても深いメッセージが含まれた子ども向けの本2冊をご紹介したいと思います。
絵本も童話も、幼児だったり、児童を対象にしたものですが、ところがどっこい、大人にこそ読んでほしい作品がたくさんあります。
『ぼくを探しに』から始まる自分探し
何かが足りない それでぼくは楽しくない
足りないかけらを探しに行く ころがりながらぼくは歌う
「ぼくはかけらを探してる、足りないかけらを探してる、
ラッタッタ さあ行くぞ、足りないかけらを……」
アメリカの絵本作家シェル・シルヴァスタインの『ぼくを探しに』の冒頭の一節です。
そしてある日のこと ぼくにぴったり合いそうな かけらに出会った
・・・はまったぞ ぴったりだ やった!ばんざい!
・・・あれ?まるくなったと思ったら 今度はちっとも歌えない
なるほど つまりそういうわけだったのか それでぼくはころがるのをやめて
かけらをそっとおろし 一人ゆっくりころがっていく ころがりながらそっと歌う
やっと見つけた ‘’かけら‘’ ですが、どうもしっくりきません。‘’かけら‘’ に別れを告げ、また、探しを続けていきます。
・・・ラッタッタ さあ行くぞ 足りないかけらを探しにね
さて、「ぼく」が探し求める ‘’かけら‘’ とは、私たち大人に例えたとき、何だったんでしょうか?
子ども向けの絵本ですが、大人でも共感できるどこか哲学的な作品です。
~ ちょっと心が折れたとき 新たな一歩を踏み出すとき 大切な人を想うとき 何かを変えたいと思ったとき そして何も変わらないとき ~ ふっと、なにか思い立たとき、手に取っていただけたらと思います。
次に、ご紹介するのは、温かい言葉とイラストが特徴のシルヴァスタインとはまったく異なり、シュールな物語を通じ、孤独や絶望を表現した作家の作品です。
‘’絶望名人‘’カフカが描く不思議な世界
「ある朝、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目覚めたとき、自分がベッドの上で一匹の巨大な毒虫に変わってしまっているのに気づいた・・・」
チェコのプラハ出身の小説家フランツ・カフカの代表作『変身』はここから始まります。
カフカは、人間存在の不条理をシュールレアリスム的な描写で描きます。『変身』や『審判』『城』などの代表作のほか、短編小説も人気です。
カフカの小説は、「よく分からない」「難解」「奇妙」「非現実的」・・・といった印象を持たれる方が多いと思います。
そこで紹介したいのが、『カフカ童話集』です。編者が、カフカの短編小説を子どもでも読めるように童話風に翻訳したものです。ただ、読みやすくはなりましたが、やはりよくわかりません。
カフカは世界的文学者として評価されていますが、ほとんどの作品は生前には発表されなかったそうです。小説家としての成功を望みながらも、人生は空回りし続け、その上、自己肯定感がとても低いことから、「絶望名人」とまで言われています(『絶望名人カフカの人生論』(頭木弘樹編訳)より)。
「いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」
「それでも孤独さが足りない それでもさびしさがたりない」
「何かしようにも、これまでやることがなかったのです。そして、生きがいを感じたことでは、非難され、けなされ、叩きのめされました。」
「ひとりでいれば何事も起こらない」
カフカの残した日記や手紙には、このような悲惨でありながら、どこかユーモラスで笑ってしまう、なぜか勇気づけられるような言葉がたくさん書き留められています。
『カフカ童話集』は、そんなカフカの人生を頭の片隅において読んでいただくと、興味深く、なにか思わぬ発見があるかもしれません。
ビートルズの名曲『Nowhere Man』の‘’ひとりぼっちの君‘’とは?
カフカは、人生そのものを「自分には少しも居場所がない世界」「どこまでいっても居心地の悪い世界」と感じていたようです。遺書には「すべての原稿を燃やしてくれ!」と書かれていたそうです。
一方、シルヴァスタインは、足りないものを探そうと試行錯誤しながら、それを得たとしても、必ずしも人生が豊かになるものではないことを教えてくれます。
日々の生活において、何かが足りないと感じることは、多くの人が経験することと思います。そのような人のために、作風の異なる子供向けの2冊を紹介させていただきました。
さて、蛇足にはなりますが、ビートルズの名曲、『Nowhere Man(ひとりぼっちのあいつ)』の歌詞の一節を紹介します。
ひとりぼっちの君 気にすることは無いよ
自分の為に時間を使えばいい 急ぐことはない
誰かが君に手を差し伸べるまで ずっとその世界にいればいいんだ
目的は何もない
自分がどこに向かっているのかもわかっていない
でも 君たちも僕も ちょっと似たようなもんだろ?
ひとりぼっちの君 聞いてくれよ
君は 自分に何がかけているのか わかっちゃいない
ひとりぼっちの君 世界は君の思うがままだ
ジョン・レノンと言えば、ビートルズのリーダーであり、ソロで発表した『イマジン』はあまりに有名です。その彼が、自分自身について書いたと言われています。どこか寓話的な歌詞と軽快なメロディには、とても心地よさがあります。
どうやら、ありのままの自分を受け入れることが、人生を有意義なものにするのかもしれません。
ココロを楽にして、感受性を大切に、もっとたのしいこと、たいせつなことを見つけていきたいと思います。
仕事が忙しく、本が読めない方々へ
さて、冒頭の話題は戻ります。
若手の文芸評論家 三宅香帆さんは、著書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の中で、働きながら本を読むコツを紹介しています。
① 自分と趣味が合う読書アカウントをSNSでフォローする(次に読みたい本が見つかります)
② iPadを買う(すき間時間で読める、スマホより字が大きい、ただし、SNSアプリは絶対入れない)
③ 帰宅途中のカフェ読書を習慣にする(読書の時間を決め、趣味の時間を区切る)
④ 書店へ行く(書店に行くだけで気分が上がる)
⑤ 今まで読まなかったジャンルに手を出す(働いたことで読める本の幅が広がる)
⑥ 無理しない(読みたくなったら、読めばいい)
読書を通じ、自由に考え、想像するなんて、なんて贅沢な時間の過ごし方でしょう!
以上、ご参考にしていただけたら、とても嬉しいです。